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コラム

自律的な化学物質管理のキホン (2024年中災防「安全衛生のひろば」連載記事を基に記載) バックナンバーはコチラ

 第十回:自律的な管理における健康診断について

 

<初めに>

前回までで、リスクアセスメントの全体の流れを説明しました。

化学物質を洗い出し、その化学物質の危険性・有害性を確認、リスクシナリオの洗い出し、それぞれのシナリオのリスクの見積もり、そして許容できないリスクは、許容できるレベルまでリスク対策を取ることが、その基本的な流れでした。これらは、実施したら終了ではなく、しっかりとフォローアップを行う必要があります。今回は、そのフォローアップの一つである健康診断を取り上げます。

 

<法で定める健康診断>

従来の有機溶剤障害予防規則などの特別則では、それぞれの法令で定める化学物質を常時使用する作業者に対して、特殊健康診断が義務付けられてきました。

今回の法改正で、事業者が自律的に実施することを検討する「リスクアセスメント対象物健康診断」が、2種類追加されました。一つは、リスクアセスメントの結果に基づいて行う第三項健診、もう一つは、濃度基準値を超えてばく露した恐れがある時に実施する第四項健診です。詳細は、厚労省から出ている「リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン」を参照ください。

考え方のポイントは、ばく露限界値は、それ以下のばく露であれば、ほとんどすべての作業者に健康影響が出ないであろうと考えられる数字なので、健康診断の意義で書いたように、それを超えるばく露が想定される場合や、実際に超えてしまった場合は、健康障害を起こさないか、健康診断でフォローすると考えておけばいいでしょう。

 

<健康診断の意義>

リスクアセスメントを行って、リスク対策をしっかり行っているのに、健康診断は行う必要があるのでしょうか?対策を行っているのだから健康障害は起きないと考えるのは無理もありません。ただ、本シリーズ第四回を思い出してください。「機械は壊れる」「人は間違える」「地震などの天災は必ずやってくる」ことを前提に、これらの「引き金事象」が起きたときにどういう災害につながるのか、リスクシナリオを考えておくことを説明しました。つまり、リスク対策は、常に引き金事象により無効化されることを考えておく必要があるわけです。

特に、保護具は、多くの条件がそろって初めて有効に機能します。逆に言うと、ちょっとしたことで有効性が失われます。呼吸用保護具であれば、先月号で説明した通り、リスクに応じた適切な能力を持ったマスクを選択して、フィットテストを実施して作業員毎の顔にフィットしたマスクを選択して、装着する毎にシールチェックを確実に行うことで、リスクを下げることはできます。ただし、実際には、作業中に汗をぬぐうなどマスクを外したり、シールチェックをし忘れたり、髭を剃らずにマスクの密着性が失わるなど、マスクの漏れは起き得るものです。しかも漏れていることが見えないため、気が付かずに、結果として過剰のばく露が継続的に起きている懸念は払しょくできないわけです。

このように、対策の信頼性が疑われる場合や、引き金事象が起きる確率が高いと判断される場合は、最後の砦として健康診断を行い、一人一人の健康をチェックすることで、健康障害の予兆を早くとらえて対策を取ることが重要になるわけです。

 

<産業医、産業看護職との連携>

従来のような特別則の健康診断では、実施すべき状況が決まっているために、何も考えずにルーチン的に健康診断が行われている事業所が多いかもしれませんが、リスクアセスメント対象物健康診断では、実施するかを含めて、状況に応じて判断をすることが求められます。そのため、事業所内がワンチームで有機的に連動する必要があります。

まずは、化学物質管理者は、職場にある化学物質と、そのリスクアセスメントの結果を確実に産業医に伝えることが重要です。リスクアセスメントの結果は、リスクアセスメント対象物健康診断を行うかの判断のベースになることと、健康診断の結果、有所見結果が出てきたときに、それが職場の化学物質ばく露に依るものか、そうでないかを産業医が判断するのに必要な情報だからです。

もし産業医の判断で、有所見の原因が職場の化学物質であることが疑われた場合は、今度はその情報を産業医から化学物質管理者に連絡してもらう必要があります。それを受けて、化学物質管理者は、過去のリスクアセスメントが妥当だったのか、対策は有効に機能しているのかなど、検証して、もし改善すべき点が見つかれば解決しなくてはなりません。

このように化学物質管理者と産業医とが連携して健康診断によるフォローを行うことが自律的管理においてな極めて重要です。

 

<最後に>

最も望ましいのは、病気になってから治療を行うのではなく、病気を予防することです。そのためにリスクアセスメントでリスクを把握して、対策を十分にとったうえで、健康診断で病気の予兆が見られないか監視を行い、もし予兆が見られたら速やかに対応すること。そのために、形式的ではなく、意味のある健康診断を考えて進めていただけたらと思います。